ボルボ 242 ターボエボリューション(1983 アメリカ)

ボルボ

初期のGr.Aツーリングカーレースで、ボルボ240ターボはその無骨な外観に見合わぬ速さを誇り”フライングブリック”と呼ばれていた。ボルボはこの車をレースに参戦させるにあたり、500台限定のホモロゲーションモデルを用意していた。それが非公式に242ターボエボリューションと呼ばれるもの。ここでボルボは特異な手法を採る。ベース車両とホモロゲーション部品を米国に輸出し、そこで500台の特別な車両を製造。ホモロゲーションの審査が完了したところで、ほぼすべての特殊な追加パーツを取り外して車両を販売するというもの。この成り立ち故、仕様については謎に包まれている部分も多いが、取り外されたものは大径ターボ、ウォーターインジェクション、ゲトラグ製5速マニュアルトランスミッション、LSD、強化されたブレーキ、リアスポイラー等とみられる。しかし、中央部が平らにくぼんだフロントフードとインタークーラーはそのまま装着され、その姿からこの車は”フラットフード”とも呼ばれる。ターボエボリューションは、表面上はカタログモデルであるGLTターボの995ドルオプション装着モデルとして設定され、その内容は「インタークーラーとトリムのパッケージ」とされる。これはボルボ初のインタークーラーターボモデルであり、2.1Lの直4 SOHC ターボは161馬力を発生した。

これはFIAのホモロゲーション資料。ホモロゲーション部品を組み込んだ本来の242ターボエボリューションの姿がそこにある。リアのスポイラーも、ウォーターインジェクションも、その特殊装備は最終的には取り外されて販売されていた。ホモロゲーションに必要なのは500台の「製造」であり、ボルボはその仕様のまま「販売」することは規定されていないという解釈に基づきこのモデルを設定したのであった。しかしこれはFIAにも疑惑の目で見られ、このモデルのホモロゲーションが一時的に撤回されるなど、現場では混乱も生じた。

ルールブックを読み込むのは”何が規定されているか”ではなく”何が規定されていないか”を知るため。規定されていなければ、そこには可能性があると突き進む。そして制約がどんどん多くなる。そういうイタチごっこがモータースポーツの世界ではよくあるのです。

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