2004年に北米市場専用モデルとして登場した「9-2X」は、当時ゼネラルモーターズ(GM)の傘下にあったサーブが、同様にGMと提携関係にあった富士重工業(スバル)の「2代目インプレッサスポーツワゴン」をベースに開発したモデルである。欧州のプレミアムエントリー市場におけるラインナップ拡充を目的とし、BMW 3シリーズやアウディ A3をライバルに見据えて投入された。スバル由来の走りとサーブのデザインが融合したその特異な成り立ちから、ファンからは親しみを込めて「サーバル(Saabaru)」という愛称で呼ばれることもある。
メカニズムの核心は、スバルが誇る水平対向エンジンとシンメトリカルAWDのパッケージングにある。グレードは2.5L自然吸気エンジンを搭載する「リニア」と、2.0Lターボエンジンを搭載する「エアロ」の二本立てで構成された。特にエアロはインプレッサWRXの心臓部を共有しており、圧倒的な動力性能を誇った。サーブ側のエンジニアは、プレミアムブランドに相応しい走りを実現するため、ステアリングラックをWRX STi譲りのクイックなものに変更し、専用のサスペンションブッシュやダンパー、スプリングを採用。さらに、ダッシュボードやフロアへの遮音材追加により、ベース車を凌ぐ静粛性と洗練された乗り心地を追求した。
外観デザインはサーブのアイデンティティを色濃く反映しており、伝統的な「3スロットグリル」や、航空機に由来する回り込んだ形状のヘッドライト、一新されたリアハッチ周りによって、インプレッサとは一線を画す端正な欧州車の装いを手に入れた。室内空間では、イグニッションスイッチこそスバル方式のコラム位置に留まったものの、シートにはサーブ独自の「アクティブヘッドレスト」を備えた上質な素材を採用。インパネの造形こそベース車の面影を残すが、二色使いの内装色や細部の質感向上により、北欧ブランドらしい落ち着きのある機能的なコクピットを構築していた。
しかし、2005年のGMと富士重工業の提携解消に伴い、9-2Xの生産はわずか2年足らずで終了した。総生産台数は約1万台に留まり、当時は場当たり的なバッジエンジニアリングの象徴として批判を受けることもあったが、9-2Xはスバルの高い信頼性と走りのパフォーマンスに、サーブの知的な美意識が加わった稀有な存在として評価の高い一台である。

画像ギャラリー








