1966年に登場した「ジェンセン FF」は、世界初の量産フルタイム四輪駆動乗用車として自動車史に足跡を残した高性能GTである。その端緒は先代モデルにあたるFRP製ボディの「C-V8」に遡る。ジェンセンはハリー・ファーガソン・リサーチ社と提携を結び、1965年にC-V8をベースとした四輪駆動試作車「C-V8 FF」を製作。同年のロンドン・モーターショーで公開されたこの試作車は、大排気量V8の強大なトルクを全天候下で確実に路面へ伝える革新性を実証し、市販型FFの誕生に向けた決定的な技術的足がかりとなった。

市販モデルは、伊トゥーリングが基本デザインを手がけたスチール製ボディの「インターセプター」をベースに開発された。車名の「FF」は前輪駆動ではなく「ファーガソン・フォーミュラ」を意味する。前輪駆動用のトランスファーやドライブシャフトを収めるため、シャシーおよびホイールベースはインターセプター比で約10cm延長された。これに伴い前部フェンダーのエアアウトレットが2連スリットとなった点が、外観上の明確な識別点である。心臓部にはクライスラー製6.3リッターV型8気筒OHVユニットを搭載し325hpを発生。堅牢なトルクフライト3速ATを介して豪快な推進力を発揮した。
センターディファレンシャルによって前後37対63の不等トルク配分を行うフルタイム四輪駆動システムは、プラネタリーギアと一方向クラッチを組み合わせ、駆動輪のスピンや制動時の急激な回転差を抑制した。さらに、航空機技術から転用されたダンロップ製「マックスレット」機械式アンチロックブレーキを量産乗用車として世界で初めて標準装備。当時としては突出したトラクション性能と制動安定性を誇り、滑りやすい路面環境でも卓越した走破性を発揮した。
しかし、前輪駆動用シャフトがエンジンの左側を通る構造上、操舵系との物理的な干渉を回避できず、右ハンドル仕様しか製造できなかった。これにより最大の需要地である北米市場への進出を断たれたことに加え、高度で複雑な機構に伴う製造コストの高騰も重なり、1971年までの生産台数は320台強にとどまった。商業的な成功には恵まれなかったものの、アウディ・クワトロの登場より十数年も早く全天候型ハイパフォーマンスの価値を示した孤高のパイオニアとして、現在も不朽の評価を受けている。

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