メルセデスベンツ C112(1991 ドイツ)

メルセデスベンツ

1991年のフランクフルト・モーターショーで初公開された「メルセデス・ベンツ C112」は、モータースポーツ活動の工学的知見を公道走行へ結びつける目的で開発された実験的スーパースポーツである。1960年代から70年代にかけて展開された実験車両群「C111」の思想を継承し、世界スポーツプロトタイプカー選手権で実績を収めたザウバー メルセデス C11の技術的知見を反映。市販化を視野に入れた実働プロトタイプとして開発された。

車体構造には、接着とリベット接合を組み合わせた先進的なアルミニウム製モノコックを中核に採用。後部の動力支持部には鋼管サブフレームを組み合わせ、外板にはケブラーやグラスファイバーの複合素材を架装した。ガルウィングドアを備えた車体の座席背後には、6.0リッターV型12気筒DOHC「M120」を縦置きミドシップに搭載。408psを発生し、6速マニュアルを介して後輪を駆動した。

最大の特徴は、のちの市販車へ受け継がれる先進的な電子制御技術の集中投入にある。走行状態に応じて車高や減衰力を瞬時に油圧制御する「アクティブ・ボディ・コントロール(ABC)」をいち早く実装。さらに前後の可変空力機構を備え、後部の可動式スポイラーは急制動時に立ち上がりエアブレーキとして機能した。加えて後輪操舵機構や、ミリ波レーダーによる車間距離警告システムなど先端技術を統合していた。

発表直後には700件を超える購入予約や意向表明が寄せられたが、環境保護への配慮や安全性を最優先する企業方針、過度な高性能競争への懸念から量産計画は中止された。製造は試作の1台にとどまったものの、ここで実証された電子制御サスペンションや空力制御、能動的安全技術は、その後のSクラスをはじめとする量産車種へ確実に継承され、自動車工学の進歩に確かな足跡を残した。

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