1967年3月のジュネーブモーターショーで発表された「マトラ M530」は、航空宇宙・軍需企業マトラの自動車部門が、ルネ・ボネ由来の「ジェット」に続いて開発した量産スポーツカーである。若年層が日常的に親しめる実用的なクーペを企図し、フィリップ・ゲドンが設計を主導。ジャック・ノシェによる車体造形には格納式前照灯や脱着式ルーフパネルが組み込まれ、後部のアクリル窓も取り外し可能とされるなど、開放感と多用途性を兼ね備えた設計が採られた。
車体骨格には、強固な鋼板溶接によるプラットフォームフレームを採用し、外板には軽量なエポキシ樹脂製成形パネルを組み合わせた。座席背後に動力部を積むミドシップ配置でありながら、全長約4,160mm、ホイールベース2,560mmの車台内に+2の小型後部座席を確保した2+2パッケージングを実現。四輪独立懸架には前部ダブルウィッシュボーン、後部トレーリングアームを備え、車両重量約935kgという軽さにより安定した重量配分を成立させた。
動力部には、全長が短く前後の専有面積を抑えられる独フォード製「タウヌス 17M」用の排気量1,699cc 60度V型4気筒OHVユニットを縦置きで搭載。気化器にはソレックス製ツインチョーク型キャブレター1基を備え、初期型で73ps、後期のLXで75psを発生。2,800rpmの低回転域で132Nmの最大トルクを発揮し、4速マニュアルトランスアクスルを介して扱いやすい操縦特性を提供した。
1970年には細部を改修した「530 LX」、1971年には固定屋根と丸型4灯固定前照灯を備えた廉価版「530 SX」を投入。1973年までの生産期間で約9,600台が製造され、のちに登場する横並び3人乗りミドシップ「バゲーラ」へと技術的知見が引き継がれた。航空宇宙分野の複合素材技術を応用しつつ独創的な座席配置を試みた、フランス製スポーツモデルの模索期を示す1台である。

関連ブログ

画像ギャラリー






