1980年に登場した「BMW M535i(E12型)」は、BMWのモータースポーツ部門が開発を手がけた高性能セダンである。先行して登場したミドシップスーパースポーツ「M1」に続き、2番目に「M」の名を冠された市販モデルとして誕生。実用的な4ドアの車体にレーシング由来の技術を融合させ、現代に続く高性能サルーンの礎を築いた。
動力部には、クーペの635CSiと共通する3.5リッター直列6気筒SOHCユニット(M90型)を搭載。ボッシュ製燃料噴射装置との緻密な連携により、低回転域からの豊かなトルクとともに、淀みなく吹け上がる卓越したレスポンスを獲得した。このユニットは218psを発生し、0-100km/h加速7.2秒、最高速度222km/hという当時の一級スポーツカーに匹敵する駿足を誇った。駆動系にはゲトラグ製5速マニュアルと25パーセントのLSDが組み合わされ、大排気量自然吸気ユニットの力を余すところなく路面へと伝達した。
足回りはガルヒングの工房で入念に仕立てられ、ビルシュタイン製ダンパーを備えた専用サスペンションと大型化された四輪ディスクブレーキを採用。外観には専用の前部エアダムスカートやトランクスポイラーが備わり、高速巡航時の空力特性を高めた。室内にはレカロ製スポーツシートやM1と同意匠のステアリングが与えられ、機能性に優れた空間を構築した。
総生産台数は約1,650台にとどまったものの、優れた操縦性と圧倒的な速さは世界中で絶賛された。単なるサルーンを超えた「大人が愉しむ高性能実用車」の概念を確立し、のちに登場する名車「M5」へと至る系譜の源流となった。Mの哲学を量産セダンへと昇華させた、記念碑的な一台である。

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