1989年の北米IMSA GT選手権・GTOクラスに投入された「アウディ 90クワトロ IMSA GTO」は、4輪駆動技術「クワトロ」の優位性をサーキットで実証するために開発された純レーシングマシンである。前年のトランザムシリーズ制覇に続き、さらなる激戦区であるIMSAへと戦場を移行。市販の4ドアセダン「アウディ 90」の外観シルエットを残しながらも、中身は完全なレース専用設計として仕立てられた。
動力部には、グループBラリーカーやパイクスピーク制覇で培われた排気量2,190ccの水冷直列5気筒DOHC 20バルブ・ターボユニットを搭載。巨大なKKK製ターボチャージャーと大容量インタークーラーを備え、過給圧を高めることで720psの圧倒的なパワーを発生させた。組み合わせる変速機は6速マニュアルであり、トルセンデフを組み込んだフルタイム4WDシステムを介して路面へと確実にトラクションを伝達した。
車体構造は市販車のモノコックとは異なり、強固な鋼管スペースフレームで構築された。ただし当時のIMSA GTO規定に基づき、市販車との結びつきを示すルーフパネルのみベース車両であるアウディ 90のスチール製がそのまま用いられ、それ以外の外板には全幅約2メートルに及ぶカーボンファイバーやケブラー複合材のカウルを被せる構造をとった。大型ウィングと極太タイヤを備え、大排気量FR勢を圧倒する旋回性能と加速安定性を獲得した。
1989年シーズンは開発スケジュールの都合で開幕2戦(デイトナ24時間およびセブリング12時間)を欠場したものの、参戦した全13戦のうち9勝を挙げる驚異的な勝率を記録。タイトル獲得こそ逃したものの、舗装路のスプリントレースにおいても4WDシステムが卓越した速さを発揮することを世界に知らしめた、アウディ・モータースポーツ史における技術的記念碑である。

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