アウトビアンキ・プリムラは、1964年から1970年まで製造されたコンパクトカーである。当時のフィアットグループはRR(リアエンジン・リアドライブ)やFR方式が主流であり、前輪駆動(FWD)の導入には慎重であった。そのため、量販車への採用に先立ち、失敗時のリスクを回避する目的で傘下のアウトビアンキブランドから発売された経緯を持つ。のちのフィアット128に向けた先行開発モデルとして、新技術の実用性を検証する重要な任務を課せられていた。
本車は、フィアットのチーフエンジニアであるダンテ・ジアコーサが考案した「ジアコーサ式レイアウト」を世界で初めて採用した市販車である。先行する英国のミニ(BMC)が採用したエンジン下に変速機を置く構造とは異なり、エンジンとトランスミッションを横一列に並べて配置した。これにより、左右で不等長のドライブシャフトを用いる独自の駆動系が構築され、省スペースかつ整備性に優れる、現代の前輪駆動車の雛形となるパッケージングが完成した。
パワートレーンは、初期型にフィアット1100 D由来の1.2リッター直列4気筒OHVエンジンを横置きで搭載し、後期型ではフィアット124用の1.2リッターや1.4リッターへと変更された。ボディは実用的なハッチバックのほか、セダンやクーペも用意された。さらに4輪ディスクブレーキやラック&ピニオン式ステアリングなど、当時のコンパクトカーとしては極めて先進的なメカニズムが網羅されていた。
約7万5000台が製造され、その実用性を証明したプリムラの設計思想は、1969年に登場するフィアット128において結実する。フィアット128の世界的な大ヒットにより、ジアコーサ式レイアウトは近代的な前輪駆動車の業界標準として世界中で模倣されることとなった。自動車工学の歴史において、今日のファミリーカーの原型を決定づけた技術的先駆者として、本車は非常に重要な意義を持っている。
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