それまでの保守的なフォードのイメージを変え、次世代を担う若者にアピールする意図を持って生み出された欧州型のスポーツカーがマスタングⅠ。開発責任者はのちにフォードGTを手掛けるロイ・ラン。全長3.9m程度の小型の車体は鋼管スペースフレーム製となっており、ボディ外皮はアルミニウム製。パワートレーン配置はF1でクーパーが先鞭を付けたミドシップ方式を取り入れ、その構成は前輪駆動車であるドイツフォード製タウヌス12M用の1.5L V4パワートレーンを流用したもの。エンジン出力は89馬力であったが、車重は50L分の燃料込みで705kgと非常に軽量だったため必要十分。また、前後重量配分は47:53と小型スポーツカーとしては理想的なスペックとなっていた。マスタングⅠは1962年のF1アメリカGP、ワトキンスグレンで初披露された。その後も各地の自動車イベントを巡業するなど、新生フォードの若々しさを十分にアピールしたところでその役目を終える。フォードにとっての”初めてのマスタング”は市販されることは無く、フォード ファルコンのプラットフォームを使用したより現実的な形でマスタングは世に出ることとなった。そしてマスタングⅠのその精神は、対フェラーリ駆逐兵器として生み出されるフォードGTとして別な形で花開くこととなるのである。
マスタングⅠとその後の市販型マスタングの仕掛け人はリー・アイアコッカ。この2台の共通点はさほど多くは無いが、”マスタング”という名前を若者の脳裏に刻み付けるうえではマスタングⅠの存在は重要な存在であった。また、初代マスタングのボディサイドにはダミーのルーバーが設けられていたが、これはマスタングの出自がミドシップだった名残である。
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