1980年に登場した「ランチア ベータ トレビ」は、中型車ベータの拡充を担って投入された伝統的造形のノッチバックセダンである。車名は現地語で3つの箱(3ボックス)を意味する「Tre Volumi」に由来。ファストバック形状であった既存の4ドアサルーンをベースに独立したトランクを持つ保守的な3ボックス形状へと改修され、手堅い格式を重んじる顧客層の開拓を目指した。なお、1982年の改良時には車名から「ベータ」が外され、単に「ランチア トレビ」へと改称されている。
外観の堅実さとは対照的に、室内には著名な工業デザイナーのマリオ・ベリーニが手掛けた前衛的な計器盤を採用。無数に並ぶ丸い窪みの中にメーターや警告灯、スイッチ類を整然と配置した造形は「スイスチーズ」とも形容され、視認性の追求と独自の機能美を両立させた異色の意匠として強い個性を放った。
前輪駆動の駆動方式に直列4気筒DOHCを横置き搭載し、自然吸気の1.6リッター(100ps)や2.0リッター(115ps/電子制御燃料噴射仕様は122ps)を展開。1982年には自社開発のルーツ式過給機を備えた高性能版「ボルメックス」(135ps)を追加した。この機械式過給システムは競技車037ラリーへと通じる先進技術であり、過給遅れのないリニアな加速と優れた応答性を量産サルーンにおいて具現化した。
保守的な車体外観と独創的な内装の対比、そして過給技術の先駆的導入といった意欲的な挑戦を重ねながら、1984年までに約4万台を生産。後継となるプリズマや上級サルーンのテーマへと席を譲った後も、ランチアが誇る高度な工学思想と意匠の冒険精神を物語る象徴的な存在として語り継がれている。

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