アルピナ B12 5.7 クーペ(1992-1996 ドイツ)

BMW

1992年11月に登場した「アルピナ B12 5.7 クーペ」は、BMWのフラッグシップ「850CSi」をベースに、名門マニュファクチュールのアルピナが独自の高性能化を施したグランドツアラーである。それまでの「B12 5.0 クーペ」の後継として開発され、より強大な運動性能と上質な巡航性の両立を追求。カーボンファイバー製フード中央にはNACAダクトと熱気排出用ルーバーが配され、専用エアロパーツとともに機能美と迫力を両立させた。

動力部には、BMW M社製「S70B56型」を基礎として排気量を5,646ccへと拡大した水冷60度V型12気筒SOHCユニットを搭載。特殊鍛造ピストンやハイリフトカムシャフトの組み込み、吸排気系の最適化により、自然吸気で416psのパワーと570Nmの最大トルクを発生させた。変速機にはゲトラグ製6速マニュアルに加え、クラッチ操作を自動化した2ペダル式の「シフトトロニック(Shift-Tronic)」を設定し、確実な変速を可能とした。

シャシーには専用スプリングと電子制御ダンパーが組み合わされ、高速域における極めて高い直進安定性としなやかな乗り心地が両立された。フロントに9J×18、後部に10.5J×18の専用クラシックホイールを装着し、大径ディスクブレーキが強大な制動力を確保。内装には上質なレザーシートやウッドパネルが配され、長距離移動における疲労を低減する贅沢な居住空間が仕立てられた。

1992年から1996年までの期間に全世界でわずか57台のみがハンドメイドで製造された。リミッターを排した実力は最高速度300km/hに達し、当時としては世界屈指の超高速走行能力を誇るクーペの一角を占めた。M8の市販化が幻となった時代において、8シリーズの持つ潜在能力を極限まで引き出した最高峰モデルとして、技術的にも歴史的にも重要な足跡を残した。

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