1962年のF1世界選手権に向けて開発された「ポルシェ 804」は、同社がF1専用に一から設計した唯一のシャシーである。前年の1961年にもF2改造型の「718」でワークス参戦していたが、排気量1.5リッター制限のレギュレーションに合致させた純粋な専用車として生み出された。名手ダン・ガーニーのドライブによりフランスGPで優勝を飾り、車体とエンジンの双方を自社製造したフルコンストラクターとして、ポルシェに初にして唯一のグランプリ制覇をもたらした。
鋼管スペースフレームにアルミ製カウルを被せたスリムな葉巻型フォルムは、のちに「911」を生み出すフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(ブッツィ)がデザイン部門の責任者として最初に公に送り出した処女作であり、同社の機能美を体現した重要な起点である。操縦席直後にエンジンを置き、後輪車軸後部に6速変速機を配置するレイアウトを採り、前後トーションバー式サスペンションを装備した。制動装置には自社開発のアニュラー型ディスクを採用し、ローター内周側にキャリパーを配する特異な構造を備えたが、熱放散性の課題から実戦ではダンロップ製へ換装される場面もあった。またモンツァで開催されたイタリアGPでは、超高速コースにおける空気抵抗の低減を狙い、特殊な流線型のホイールカバーを装着して出走するなど、空力面でも独自の工夫が凝らされた。
心臓部には、ハンス・メッツガーらが手がけた新開発の1.5リッター空冷水平対向8気筒(タイプ753)を搭載。上面の大型冷却ファンが特徴で、9,300rpmで185psを発揮した。最高速度は270km/hに達し、英国勢のV型8気筒やフェラーリのV型6気筒陣営と互角に渡り合う戦闘力を誇った。
フランスGPに続き、地元シュトゥットガルトの非選手権戦ソリチュードGPでも連勝を記録した。しかし巨額の開発費に加え、次世代の基幹車種「901(のちの911)」の開発が正念場を迎えており、限られた技術陣と経営資源を市販スポーツカーへ集中させるため同年限りで撤退を決断する。短期間の挑戦ながら、F.A.ポルシェによる専用車体、独創的なブレーキや空力への試み、そして水平対向エンジンで頂点を極めた足跡は、モータースポーツ史における不朽の記録として刻まれている。

ポルシェ804と前身である718/2は、独自のアニュラー型ディスクブレーキを採用していた。一般的なブレーキとは異なり、ローターの外周をホイールに固定し、キャリパーを内周側に配置して挟み込む特異な構造が特徴である。限られたホイール内の空間でローターの有効径を最大化し、強力な制動力を確保するポルシェの自社開発特許技術であった。このブレーキシステムは、ポルシェとして初めて4輪ディスクブレーキを採用した「356 B 2000 GS カレラ2」にも標準採用された。




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