アウディ クワトロ スパイダー(1991 ドイツ)

アウディ

1991年のフランクフルトモーターショーで発表された「アウディ クワトロ スパイダー」は、同社が将来の量産オープンスポーツカーの可能性を探るべく開発した試作車である。「フィジーオレンジ」と名付けられた鮮やかな車体色を纏い、四輪駆動技術「クワトロ」を軽量な小型車体に融合させる新機軸を提示。エルヴィン・ヒメルらデザイン部門が手がけた造形は、無駄な凹凸を削ぎ落とした洗練されたプロポーションを具現化した。

車体構造には、鋼管チューブラーフレームにアルミニウム製外板パネルを組み合わせた先駆的な軽量工法を採用。車両重量は約1,100kgという極めて軽い数値を達成し、のちに結実するアウディスペースフレーム(ASF)技術の嚆矢となった。頭上には脱着式のガラス製ルーフを備え、パネル内に埋め込まれた太陽電池(ソーラーセル)によって駐車中も換気ファンを稼働させる先進的な装備が組み込まれた。

動力部には、アウディ 100に積まれていた2.8リッター(2,771cc)V型6気筒SOHC 12バルブユニットを座席背後に横置きミドシップで搭載。自然吸気から174psの動力を発生した。専用の5速マニュアルとトルセン式センターデフを備えた常時四輪駆動クワトロシステムを組み合わせ、静止状態から時速100kmまで約6秒で達し、最高速度時速250kmを記録する優れた俊敏性を実証した。

公開直後から会場で熱狂的な反響を呼び、欧州各国の販売店には3,000件を超える予約金や購入希望が殺到した。当初は約10万ドイツマルクでの市販化が模索されたものの、アルミ部材の製造工数や専用構造に伴うコスト試算が採算ラインを大幅に超過したため、惜しくも量産化は見送られた。だが、同年の「アヴス クワトロ」とともに提示された軽量ミドシップの構想は、のちのTTやR8へと脈々と受け継がれていく。

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