1972年に発表された「ルノー 5(サンク)」は、都市生活における実用性と経済性を追求して開発された前輪駆動の小型ハッチバックである。社内デザイナーのミシェル・ブエが手掛けたスタイリングは、愛嬌のある表情と無駄を削ぎ落とした3ドアボディを特徴とした。金属製に代えて車体造形と一体化したポリエステル樹脂製バンパーを採用し、軽微な接触時の衝撃吸収能力と優れた空力特性を高水準で両立させた。
車体構造には、実績あるルノー 4のコンポーネントをベース車両として活用。足回りには4輪独立懸架を採用し、前輪にダブルウィッシュボーンとトーションバースプリング、後部にトレーリングアームを組み合わせた。後部の横置きトーションバーを前後に並列配置する構造上、左右のホイールベースが約30mm異なる独自の設計を持つ。この足回りによってフランス車特有のしなやかな乗り心地と高いロードホールディングを実現した。
フロントに配置された動力部は、前車軸より後方にエンジンを載せ、変速機を前端に置く縦置き前輪駆動レイアウトを採用した。発売当初は排気量782cc(34ps)および956cc(44ps)の水冷直列4気筒OHVユニットを搭載。変速機は当初ダッシュボードから伸びるシフトノブで操作され、のちにフロアシフトへ移行した。車両重量730kg前後の軽量な車体構造を活かし、優れた燃費性能と軽快な走行特性を発揮した。
1979年には利便性を高めた5ドアモデルが追加されたほか、高性能なスポーツグレードも投入され、幅広い顧客層の支持を獲得。フランス国内で10年以上にわたり乗用車販売台数の首位を維持し、1985年の生産終了までに第1世代単体で約550万台が製造された。高い実用性と合理的な設計思想を融合させ、現代における欧州Bセグメントハッチバックの方向性を確立したモデルである。

関連ブログ

画像ギャラリー

















