1993年の第30回東京モーターショーに参考出品された「いすゞ ビークロス コンセプト(公開時名称:ヴィークロス)」は、悪路走破性とスポーツクーペの運動性能を融合させた全地形対応型のコンセプトカーである。商用車や武骨な四輪駆動車の印象が強かった同社のイメージ変革を目指し、当時いすゞのデザイン部門を統括していた中村史郎がプロジェクトを指揮。英国のいすゞヨーロッパデザインスタジオに在籍していたサイモン・コックスによる独創的な原案に着目し、日欧のデザイン拠点を連携させて未来的なフォルムを結実させた。
車体構造は先行デザインスタディとして製作され、流麗で抑揚に富んだキャビンと、車体下部を取り囲む大型の無塗装樹脂プロテクションパネルとの強烈なコントラストを特徴とした。背面ドアの内部にスペアタイヤを完全に内蔵した一体成形デザインなど、従来のクロスカントリー四輪駆動車に見られた定型的な造形規範を覆す独創的な意匠を提示。のちの量産移行時に定まる小型SUV「ミュー」のラダーフレーム活用へとつながる、力強い骨格イメージを確立していた。
フロントに配置された動力部には、排気量1.6Lの直列4気筒DOHCスーパーチャージャーユニットを想定。電子制御オートマチック変速機と4輪駆動システムを組み合わせ、オンロードでの軽快な加速性能と悪路での高いトラクション性能の両立を目指した。重量級の大排気量エンジンではなく、軽量コンパクトな過給エンジンを積む設計思想により、俊敏なハンドリング特性を追求した。
東京モーターショーの会場で集まった反響は予想を大きく上回り、国内外から市販化を熱望する声が寄せられた。中村史郎率いる開発陣はこの熱意を受け止めて量産化へ舵を切り、ミューのシャシー流用や実験的な少量生産用セラミック金型技術を導入。コンセプトモデルの先鋭的な造形をほぼ忠実に保ったまま1997年に市販版の登場へと結実させた。のちに国際的なデザインリーダーとなる中村の手腕を示す先進的試作車である。

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