1973年9月のフランクフルト・モーターショーで初公開された「ポルシェ 911ターボ プロトタイプ」は、過給機技術の市販化を予告したコンセプトスタディである。Can-Am選手権を制した「917/30」の技術応用を掲げ、最新のGシリーズ(通称ビッグバンパー)の車台を基礎に製作。後輪フェンダー後方に控えめなロゴを配した端正な車体とともに、排気量2,687ccの空冷水平対向6気筒ターボから「280ps」、最高速度260km/h以上という目標性能が提示された。
展示車に搭載されたパワーユニットは実動機ではなく、外観を再現した精巧なモックアップであった。通常のクランクケースを基礎に、木製や樹脂製のパーツを削り出してシルバー塗装したダミー部品が収められていた。大きく張り出した前後フェンダーや大型トレイ型スポイラーは、翌1974年の「カレラRS 3.0」と共通骨格を持ち、太いホイールの収容や空力特性の検証はカレラRS 3.0の開発を通じてサーキットで先行して進められた。

モーターショーでの展示を終えて保管されていた試作車(シャシー番号911 330 0157)は、思わぬ経緯で実動車へと仕立て直された。豪州インポーター代表のアラン・ハミルトンがレース参戦用にカレラRS 3.0の購入を打診した際、限定生産枠は完売していた。そこでポルシェは保管中の試作車提供を提案。モックアップを降ろし、カレラRS 3.0用の排気量2,994cc自然吸気空冷水平対向6気筒と5速マニュアル「915型」を搭載して引き渡した。
オーストラリアへ送られた試作車は、工場出荷時の左ハンドルのまま現地のスポーツカーレースへ投入され、サーキットで実戦を経験した。競技活動の一線を退いた後、現地の道路交通法規に適合させて公道登録を行うためにステアリング位置が右ハンドルへと改修された。提示された過給構想は1974年秋に量産型「911ターボ(930型)」へと結実したが、本モデルはターボ前夜の熱気と実戦の記憶を留める稀有な歴史的証跡として記録されている。

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