アストンマーティン ヴィラージュ(1989-95 イギリス)

アストンマーティン

1989年にデリバリーが開始された「ヴィラージュ」は、約20年間にわたり同社を支え続けてきた旧「V8シリーズ」の正当な後継モデルとして登場した。1988年のバーミンガムモーターショーで初公開されたこのグランドツアラーは、伝統的な英国流のクラフトマンシップを維持しながら、現代的で洗練されたフォルムを纏っていた。ジョン・ヘファーナンとケン・グリーンレイのデザインによる流麗なアルミ製ボディは、先代の武骨なスタイルから一転し、格段に向上した空力特性と優雅な気品を両立させていた。

心臓部には、当時のアストンマーティンで主力だった5.3L V8 DOHCエンジンを、リーブス・キャラウェイ率いる「キャラウェイ エンジニアリング」が大幅刷新したものを搭載。北米の厳しい排ガス規制に対応しつつ、新しい32バルブヘッドを与えられ、最高出力330馬力を発生。大柄なボディを悠然と加速させる豊かなトルクを誇った。車体の製造工程も特筆すべきもので、熟練の職人がアルミニウム板を手作業で叩き出す伝統的な手法が継続された。1台の完成に数百時間を要するその希少性は、まさに選ばれたオーナーのみが享受できる贅沢の極致であり、生産効率よりも品質を優先する往年のアストンマーティン流を体現していた。

インテリアは、最高級のコノリーレザーと贅沢なウォールナット材が惜しみなく投入された、英国車らしい重厚かつ気品あふれる空間に仕上げられている。その一方で、少量生産メーカーゆえの合理的な工夫も興味深い。例えば、ヘッドライトはアウディ 200、テールランプはフォルクスワーゲン シロッコから流用されているが、それらが全体のデザインに見事に調和している。シャシー面ではフロントにダブルウィッシュボーン、リアにド・ディオンアクスルを継承し、古典的ながらもダイレクトで重厚な乗り味を維持していた。

ヴィラージュは、フォードの資本導入により近代化が進む前のアストンマーティンにおいて、「職人の手」を感じさせる最後のフラッグシップモデルであったと言える。1990年代に入ると、オープンモデルの「ヴォランテ」や過激なツインスーパーチャージャーを備えた「ヴァンテージ」が追加され、また1996年には「ヴィラージュ」から「V8クーペ」へと名称変更を伴う改良を行う。2001年にV12エンジンを積んだヴァンキッシュが登場するまでの間、ヴィラージュの血統は英国スポーツカーの誇りとして輝き続けた。

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