1980年のジュネーブ・モーターショーで発表された「アウディ クワトロ」は、高性能乗用車にフルタイム4輪駆動を持ち込んだ先駆的クーペである。後年の4輪駆動市販モデル群と区別するため、ドイツ語で元祖を意味する「ウル・クワトロ(Ur-quattro)」の通称でも親しまれている。軍用車フォルクスワーゲン イルティスの悪路走破性に着想を得て、技術責任者のフェルディナント・ピエヒらが乗用スポーツへの応用を主導。角型ヘッドライトと前後のブリスターフェンダーを備えた力強い造形を与えられ、ブランドの技術的威信を象徴する旗艦として誕生した。
技術的革新の中核を成したのは、変速機内部に中空シャフトを通し、センターディファレンシャルと同軸に配置した極めてコンパクトな駆動構造である。従来の4輪駆動車に不可欠だった重くかさばる副変速機(トランスファー)を完全に排除し、軽量かつ低重心な車体構成を確立した。当初は室内スイッチで操作する手動式のセンターデフおよび後部デフのロック機構を備えていたが、1987年の改良でセンターにトルセン式ディファレンシャルを導入。前後の駆動力を走行状態に応じて自動配分し、卓越した直進安定性と回頭性を一段と洗練させた。
フロントに縦置きされた直列5気筒ターボユニットも、綿密な段階的進化を遂げた。当初は2.1リッターSOHC 10バルブ(200ps)で登場し、1987年には排気量を2.2リッターへと拡大。この時点では200psの数値を据え置きつつ、最大トルクの発生回転を引き下げて実用域の扱いやすさを劇的に改善した。さらに1989年には待望のDOHC 20バルブヘッドを備えた新仕様へと刷新され、220psへと一挙に性能を引き上げた。この強化により最高速度は230km/hに到達し、第一線のスポーツクーペとしての絶対的な速さを確立した。
足回りには4輪独立マクファーソンストラットを採用。後輪側には量産車アウディ80の前輪用ストラット構造を180度反転させて流用するなど、高度な工学的合理性が貫かれていた。いかなる路面でも確実に路面を掴む駆動力は世界ラリー選手権(WRC)の常識を根底から覆し、圧倒的な戦績を収めてグループB時代の幕を開けた。1991年までに11,452台が生産され、過酷な競技での勝利と市販モデルの着実な熟成を通じて、高性能4輪駆動の価値を世界に決定づけた歴史的名車である。

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