1965年に登場した「イノチェンティ ミニ」は、スクーターのランブレッタで知られたイタリアのイノチェンティ社が、英BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)とのライセンス契約のもとで製造した小型車である。アレック・イシゴニスが生み出した前輪駆動の革新的な超小型車を、イタリア国内の輸入関税障壁を回避して供給すべく企画。ミラノのランブラーテ工場に生産ラインを構え、イタリア市場へ本格的な導入を開始した。
外観および車内空間には、英国の原設計を踏襲しつつもイタリア独自の洗練された仕立てが施された。前部ドアには換気用の三角窓(ベントウインドウ)が設けられ、専用グリルやカレロ製灯火類、専用エンブレムを装備。車内には多連丸型計器や上質なシート生地、厚みのあるカーペットが奢られ、簡素な大衆車であった英国製モデルに対して明確に質感を高めたプレミアムな風合いを獲得した。
動力部には、BMC製の直列4気筒OHV「Aシリーズ」ユニットを車体前部に横置きで搭載。変速機をオイルパン内に収める独特の駆動配置を忠実に継承した。848ccの「ミニ・マイナー」から展開が始まり、やがて998ccの「クーパー」や、1,275ccユニットにツインキャブレターを組み合わせた高性能版「クーパー1300」を投入。前輪ディスクブレーキや専用ギア比を備え、軽量な車体と相まって極めて俊敏な走行性能を発揮した。
英国由来の合理的なパッケージングとイタリア独自の細部改修を組み合わせ、1975年までに約40万台規模が世に送り出された。都市部を中心にセカンドカーや若年層向けの実用車として浸透し、のちにベルトーネが外観造形を担当したハッチバック型へと代替されるまで、同社の四輪車事業の中核を担った。輸入関税への対抗から端を発したライセンス生産を通じて、イタリア市場における独自の立ち位置を築いた1台である。

関連ブログ

画像ギャラリー











