1969年のトリノ・モーターショーで披露された「アウトビアンキ A112 ランナバウト」は、カロッツェリア・ベルトーネが手がけた前衛的な試作オープンカーである。チーフデザイナーのマルチェロ・ガンディーニが造形を担当。当時デビューした小型ハッチバック「A112」の名を冠したプロモーションモデルとして公開され、その独創的なスタイリングによって世界中に鮮烈な衝撃を与えた。
車体意匠は高速モーターボートから着想を得て構築され、鋭角的なウェッジシェイプを形成。フロントガラスを極端に低く抑えたバルケッタ構造とし、乗員後方のロールバー側面にヘッドライトを配置する前衛的な設計が採られた。船体を想起させるサイドのラインや無駄を削ぎ落とした幾何学的な造形美は、ガンディーニの先進性を如実に物語る。
車名にはA112と記されていたものの、骨格内には同年に誕生した前輪駆動大衆車「フィアット 128」のコンポーネントを流用。アウレリオ・ランプレディ設計の1.1リッター直列4気筒SOHCユニットとトランスアクスル一式を座席背後に移設し、車体中央に配置する「横置きミドシップ」が採用された。このユニットは軽快に吹け上がり、55psを発生して後輪を駆動した。
大衆車の駆動系を車体後部へ移設するダンテ・ジアコーサの合理的思想を、極めて魅力的な造形へと昇華させた点に大きな意義を持つ。尖鋭的なウェッジ造形と横置きミドシップの基本骨格はそのまま熟成され、1972年に登場する名作「フィアット X1/9」の直接の母体となった。単なるショーモデルにとどまらず、小型スポーツカーの新時代を切り拓いた歴史的傑作である。

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