1995年のジュネーブ・モーターショーで発表された「フィアット バルケッタ」は、イタリア語で「小舟」を意味する車名を与えられた前輪駆動の2座オープンスポーツである。社内デザイン部門のチェントロ・スティーレが手掛けたスタイリングは、1950年代のクラシックスポーツを思わせる流麗な曲面構成を特徴とした。車体側面に埋め込まれた格納式ドアハンドルや、後部デッキへと滑らかに連続する立体的なフェンダーラインにより、明快な個性を確立した。
車体骨格には、小型車「プント」のプラットフォームをベース車両として流用。ホイールベースを2,275mmへと大幅に短縮したうえで、オープン化に伴う曲げ・ねじり剛性の低下を抑えるため、フロアパンやサイドシル各部に補強を施した。足回りには前輪マクファーソンストラット式、後部にトレーリングアーム式を採用。前輪駆動レイアウトでありながら、軽量な車体と引き締まったサスペンション設定により、軽快な回頭性を実現した。
動力部には、排気量1,747ccの水冷直列4気筒DOHC 16バルブユニットをフロントに横置き搭載。吸気側に可変バルブタイミング機構を組み込み、130psのパワーと164Nmの最大トルクを発生させた。組み合わされる変速機は5速マニュアルのみとされ、低中回転域から豊かなトルクを発生する特性を活かし、車両重量約1,060kgの車体を淀みなく加速させた。制動系には4輪ディスクブレーキが備えられた。
生産工程は当初、車体製造の実績を持つ名門カロッツェリアのマッジョーラが受託していた。同社の経営破綻による一時中断を経て、2003年にはフィアットのミラフィオーリ工場へ移管され、バンパー造形などの小変更を受けつつ2005年まで継続生産された。右ハンドル圏を含む全市場へ左ハンドル仕様のみで供給され、総生産台数は約5万7,700台を記録。日常的な扱いやすさと開放的な走行感覚を兼ね備えた小型ロードスターとして足跡を残した。

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