メルセデスベンツが2006年に発表した「R63 AMG 4MATIC」は、ミニバンとステーションワゴン、SUVの要素を融合させた3列シートの高級グランドツアラー「Rクラス(W251系、V251系)」をベースに、AMGが高度なチューニングを施したハイパフォーマンスモデルである。主要市場である北米を見据えて車両の組み立ては米アラバマ州タスカルーサ工場で行われたが、ドイツのアファルターバッハの本社で熟練職人が「One Man, One Engine」の理念に基づき手組みしたV8エンジンを現地へ空輸して車体に搭載するという、AMGとしては異例の生産工程が採用された。
パワートレーンには、AMG自社開発の6.2リッターV型8気筒自然吸気DOHC「M156型」エンジンを搭載。510馬力、64.2kgmという圧倒的なスペックを誇り、スポーツ変速プログラムを備えた7速AT「AMGスピードシフト 7G-TRONIC」とフルタイム4WDシステム「4MATIC」が組み合わされた。足回りには専用チューニングが施された「AIRMATIC」エアサスペンションや強化ブレーキシステム、専用の20インチアルミホイール、4本出しエキゾーストエンドが与えられ、重量級ボディを破綻なく制御する高度なシャシー性能を備えていた。
車両重量が2.3トンを超える大型ボディでありながら、0-100km/h加速約5.0秒というスポーツカーに匹敵する加速性能を実現した。最高速度は通常250km/hでリミッター制御されていたが、オプションの「AMGドライバーズパッケージ」を選択することで275km/hまで引き上げることが可能であり、「世界最速のミニバン」としてアウトバーンで他を圧倒する動力性能を発揮した。その極端なコンセプトゆえに店頭在庫を持たず、熱心な愛好家の注文を受けてから製造される完全受注生産に近い形で販売された。
実用性と究極のハイパフォーマンスを兼ね備えていたものの、ニッチな市場特性と高価格からわずか約1年で生産を終了。世界全体の総生産台数は推定200台前後にとどまり、数々の限定スーパーカーをも凌ぐ圧倒的な少なさから、歴代AMG屈指の希少モデルとして現在もカルト的な人気を博している。

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