1989年に英TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)が製作した「フォード トランジット XJ220 テストミュール」は、ジャガー「XJ220」の機関系を極秘裏に熟成するために生まれた開発用車両である。新開発V6ツインターボの路上試験を行うにあたり、メディアや一般の目を欺く偽装用テストベッドとして、英国の国民的商用バンであるトランジットの車体が選ばれた。
ベース車のディーゼル機関を撤去し、荷室中央にXJ220用の3.5リッターV型6気筒ツインターボ「JV6型」(最高出力542bhp)をミドシップに搭載。トランスアクスルを直結して後輪を駆動した。当時のリア足回りは暫定的なサブフレームを組んだ粗削りな構造でありながら、過酷な熱害対策や変速機の耐久テストを影で支える強固なテストベッドとして機能した。
外観は梯子を積んだ平凡な商用バンでありながら、ミルブルック試験場では時速約273kmを記録。バンの空力特性ゆえに高速域での直進安定性は極めて不安定で危険を伴ったものの、公道での数万マイルにおよぶ実走試験を完遂し、当時世界最速を記録した量産型XJ220の誕生に決定的な貢献を果たした。
開発終了後は一時放置されたが、XJ220専門のドン・ロー・レーシングが救出してレストアを実施。シャシーやサスペンションが本格的に再構築され、出力を約640bhpへ高めた同モデルは、英グッドウッドでの激走やテレビ番組『トップ・ギア』での走行を通じて広く知られ、英国モータースポーツ史の異色のテストベッドとして親しまれている。

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