1974年のジュネーブ・モーターショーで発表された「フォルクスワーゲン シロッコ」は、旧態化が進んでいたカルマン・ギアの後継として企画された前輪駆動のスポーツクーペである。同年に控えていた主力大衆車「ゴルフ」に先駆けて市場へ投入され、新世代プラットフォームの実証を兼ねる役割も担った。デザインはジョルジェット・ジウジアーロが担当。直線とウェッジシェイプを基調とした流麗なファストバックスタイルが与えられ、車体製造は名門カルマン社が担当した。
駆動方式には、同社として初採用となるジアコーサ式横置き前輪駆動レイアウトを導入。エンジンと変速機を直列に横置き配置することで、低いノーズの造形と効率的なスペース配分を両立させた。動力部には新世代の水冷直列4気筒SOHC「EA827型」ユニットを搭載し、排気量は1.1L(50ps)や1.5L(70ps/85ps)から展開。1976年には機械式燃料噴射を備える高性能版「GTI」が追加され、110psのパワーにより俊敏な運動性を発揮した。
シャシーには前輪マクファーソンストラット式、後部にトーションビーム付きトレーリングアーム式サスペンションを採用。簡潔な構造ながら高い接地性とロール剛性を両立させ、軽快な回頭性を実現した。制動装置には前輪ディスク、後部ドラムを組み合わせ、確実な減速性能を確保。大型ハッチゲートを備える車内は、低い着座位置を保ちつつ大人4名分の居住空間と十分な積載容量が確保され、日常の実用性も高く維持された。
1974年から1981年までの期間に、カルマン社の工場において50万台以上が製造され、世界各国へ供給された。前輪駆動スポーツクーペというジャンルを確立して欧米市場で高い支持を集め、操縦性と実用性の高度な融合を具現化。後継モデルへと系譜を繋ぐとともに、フォルクスワーゲンが空冷後方配置エンジンから近代的な水冷前輪駆動体制へと技術的転換を果たすうえで極めて重要な足跡を残した。

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