アウディ スポーツクワトロ(1983-1984 西ドイツ)

アウディ

1983年のフランクフルト・モーターショーで発表された「アウディ スポーツクワトロ」は、世界ラリー選手権(WRC)のグループBカテゴリーを制覇するために開発されたホモロゲーションモデルである。ベースとなった量産クーペ「クワトロ」に対し、ホイールベースを320mm短縮して2,204mmとし、回頭性の飛躍的な向上を追求。外板にはケブラーやカーボンファイバーなどの複合素材を多用し、過酷な競技を見据えた極めてコンパクトな2ドアクーペとして仕立てられた。

動力部には、排気量2,133ccの水冷直列5気筒DOHC 20バルブ・ターボユニットを採用。ターボ係数1.4を乗じた際に3.0L未満の排気量区分へ収めるため、従来のボアをわずかに縮小した専用設計である。大型インタークーラーとKKK製ターボチャージャーを備え、ロードカー仕様で306psのパワーを発揮。センターデフロック機構を備えたフルタイム4WDシステムを介して4輪へ効率的に動力を分配した。

シャシーはホイールベースの大幅な短縮によって俊敏な旋回性を得た反面、直列5気筒ユニットを前車軸の前方に配置する基本構造を維持したため、車両重量の過半が前部に集中し、前輪荷重が過大となる工学的課題を抱えた。この極端なフロントヘビーな前後重量配分は、競技現場においてブレーキング時の姿勢変化やアンダーステア、その直後に生じる唐突な挙動変化を引き起こし、ドライバーに高度な操縦技術を要求した。

WRCの実戦では1984年シーズン途中から投入され、のちに進化した「S1」へと発展したものの、専用設計のミドシップ4WDを投入してきたプジョーやランチアなどの競合勢に対し、前輪荷重過大に起因する操縦性の難しさは最後まで残された。規定を満たすために製造された約200台強のロードバージョンは、アウディの4WD技術革新とグループB黄金期の過激な開発競争を物語る貴重な存在となっている。

通常の「ビッグクワトロ」に対して、機動性確保のために大幅にホイールベースを切り詰めたスポーツクワトロ。しかし、ただでさえフロントアクスル前に長大な直5を縦置きするクワトロ。フロントヘビーが助長され挙動はシビアに。WRCではレギュラードライバーにドライブを敬遠されるほどだった。

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