2011年に発売された「アストンマーティン シグネット」は、欧州の厳しいCO2排出量規制への対応を見据えて企画された都市型プレミアムスモールである。トヨタ自動車の「iQ」をベースに選定。日本の工場で組み立てられた半完成状態の車体を英国ゲイドンの本社工場へ輸送し、内外装を分解したうえで1台あたり約150時間の手作業を掛けて再構築する独自の生産方式が採られた。
外装には伝統のヴェーンフロントグリルや専用の前後灯火類を配し、全長は専用造形によりベース車の2,985mmから3,078mmへと拡大。内装は樹脂パネルを排し、スポーツカーと同等の最高級レザーやアルカンターラを手作業で張り巡らせた。遮音材の追加による静粛性の向上も含め、超小型ボディに名門ならではの贅沢を凝縮した。
動力源にはトヨタ製の1.3リッター直列4気筒DOHC「1NR-FE」を横置き搭載し、6速マニュアルまたは無段変速機(CVT)を介して前輪を駆動。98馬力を発生し、都市部での軽快な走行性能を確保した。専用の足回り適合や徹底した防振対策により、短いホイールベースを感じさせない落ち着きある乗り味を追求した。
当初は自社オーナー向けのセカンドカーとして案内されたが、膨大な手作業に伴うベース車の3倍以上の高価格やブランドイメージの乖離から需要は低迷。年数千台の計画に対し、2013年の生産終了までの確定総生産台数は786台に留まった。環境規制という難題に対し、高級車メーカーが導き出した異色の回答として自動車史に記録されている。

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