メルクール XR4Ti(1985-1989 アメリカ)

フォード

1985年に北米のリンカーン・マーキュリー網へ投入された「メルクール XR4Ti」は、欧州フォードのシエラを母体とする高性能クーペである。欧州製スポーツモデルに対抗すべく創設された「メルクール」ブランドの第一弾として位置づけられ、西ドイツの名門カルマン社で委託生産された。欧州仕様のシエラXR4i直系となる3ドア車体を採用し、サイドウィンドウを前後に分割するピラーや上下2段の「バイプレーン・スポイラー」など、特徴的な空力造形を受け継いだ。

北米の厳格な排出ガス規制に適合させるため、欧州仕様のV6に代えて2,301ccの直列4気筒SOHC「リマ」過給ユニットを搭載。ギャレット製ターボチャージャーを備え、5速マニュアル変速機仕様で175psを発生した。後輪駆動のシャシーには前輪マクファーソンストラット、後輪セミトレーリングアームの4輪独立懸架を採用し、欧州仕込みの引き締まった運動性能を実現。日常的な扱いやすさと俊敏な加速力を兼ね備えていた。

北米市場の要望に応えるべく3速オートマチック仕様も用意されたが、過給圧が抑えられ145psとされた。年次改良では、初期型の象徴であった上下2段の大型スポイラーがシンプルな単体スポイラーへと変更され、ホイール意匠の刷新とともに外観の近代化が図られた。独自の欧州テイストと優れた操縦性は自動車メディアから高い評価を獲得したものの、為替変動による価格上昇やブランド認知度の不足により販売面では苦戦を強いられた。

モータースポーツにおいては、欧州のツーリングカー戦線に大きな足跡を残した。自然吸気V6で苦戦していた欧州フォード陣営に対し、ドライバー兼エンジニアのアンディ・ラウズが北米仕様の過給ユニットに着目。ラウズの積極的な働きかけと技術的支援により、フォード公式による国際自動車連盟のグループA公認取得が実現した。1985年の英国選手権(BTCC)でラウズが操るXR4Tiは総合王座を獲得し、「軽量なボディに直列4気筒ターボ」というパッケージの優位性をサーキットで実証。開発が進められていた名機「シエラ RSコスワース」登場までの過渡期を支える極めて重要な役割を果たした。

北米仕様のメルクール XR4Tiは左ハンドル専用車であったが、BTCCを戦った参戦車両は右ハンドルへと変更されていた。これは国際競技規定(付則J項第255条)において製造者純正部品の使用を条件にステアリング位置の変更が許容されていたためであり、英国サーキットでの視界や荷重の優位性を求めたアンディ・ラウズの意向と、欧州シエラの純正部品供給によって実現した。

関連ブログ

フォード シエラ XR4i(1983-1985 西ドイツほか)
1983年に欧州フォードから投入された「フォード シエラ XR4i」は、前衛的な空力意匠を纏った快速グランドツアラーである。ウーヴェ・バーセン率いるデザイン陣が手がけた車体は、専用の3ドアハッチバックを採用。サイドウィンドウを前後に分割する…

画像ギャラリー

タイトルとURLをコピーしました