1976年モデルとして北米市場専用に投入された「ポルシェ 912E」は、1975年に生産終了となった「914」と、新世代モデル「924」の北米市場導入までの空白期を埋める目的で企画されたスポーツクーペである。Gシリーズ(ビッグバンパー)の911クーペの車体構造を用い、ツッフェンハウゼン工場にて2,092台が製造された。車名末尾の「E」は燃料噴射装置を意味するドイツ語「アインシュプリッツング」の頭文字に由来し、前身である912の名称が約7年ぶりに復活した。
外観は衝撃吸収バンパーを備える911と共通のシルエットを持ち、差異はエンジンフード上のエンブレム程度にとどめられた。シャシー構造も911を踏襲し、前輪にマクファーソンストラット、後輪にセミトレーリングアームを備え、前後ともにトーションバーを採用。6気筒モデルよりも軽量な4気筒ユニットの恩恵により車両重量は約1,050kgに抑えられ、後部オーバーハングの負担軽減による良好な前後重量配分と素直な操舵応答性を維持した。
動力部には、排気量1,971ccの空冷水平対向4気筒OHVを車体後部に搭載。ボッシュ製Lジェトロニック電子制御燃料噴射装置を組み合わせ、(90ps/4,900rpm、13.5 kgm/4,000rpm)を発揮。幅広い回転域でフラットなトルク特性を確保し、厳格化された北米の排出ガス規制に適合させた。変速機には911用の915型をベースに開発された専用の923型5速マニュアルを結合し、後輪を駆動した。
優れた燃費性能と80リッターの大容量燃料タンクの組み合わせにより、高速巡航時における長大な航続距離を誇り、第二次オイルショック前後の北米市場で実用的なツアラーとして評価された。翌年に新世代FRモデル「924」が北米へ投入されたことで役割を終え、1年限りの生産で幕を閉じた。空冷水平対向4気筒を後部に積む伝統的なレイアウトの最終形として、過渡期を支えた希少なモデルである。

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